加納朋子さんの『カーテンコール!』を紹介します。
自己肯定感が上がる
感動する
人生について考えさせられる
【あらすじ】カーテンコール!(著者 加納朋子)
閉校予定の女子大でそれぞれ抱える問題により、単位を取得できず、中退目前となっている学生たち。そんな学生たちに理事長が提案したのは、特別補講を行う合宿生活。救いの手となり得るのか。短編小説。
【こんな人におすすめ】カーテンコール!(著者 加納朋子)
この本は下記のような人におすすめです。
・今を悲観している人
・何か迷っていることがある人
大学を卒業するのか、中退するのか、人生の岐路かもしれない学生たちの物語です。大学の卒業うんぬんより大切な、自分や他人を知ること、大切にすることを教えてくれる小説でもあります。悲観していることや迷っていることがある人にヒントを与えてくれる作品です。
【各話あらすじ・感想】カーテンコール!(著者 加納朋子)
砂糖壷は空っぽ
背が小さく、美少年のような顔立ちでクラスメイトからからかわれ、殻に閉じこもるような小・中学時代を過ごした僕。高校受験のために通い始めた塾で制服でズボンを選択し着用している女の子、ミエちゃんに出会う。
僕はたとえて言うなら、うっかり砂糖壷に詰められてしまった塩だ。
加納朋子『カーテンコール!』株式会社新潮社(2017年12月20日 発行)p27
自分の心と身体のことについて悩んでいる主人公は自分のことを砂糖壷に例えています。この主人公は自分的には理解しているのだけれど、それが周囲の理解を得られずらく、迷ってしまっているというように感じました。
読書の良いところの1つは、色々な人がいると知ることができることだと思います。「砂糖壷は空っぽ」に限らず、各話通して「色んな人」を知ることができる1冊でした。
萌木の山の眠り姫
朝起きることが苦手で授業を受けることが出来ず単位を落としてしまった朝子。感情が揺れると突然寝てしまったり、倒れてしまう病を抱える夕美。2人が合宿生活でルームメイトになり…。
「萌木の山の眠り姫」で、この小説は単位取得ができず中退目前の学生たちによる合宿生活を描いた小説だということが分かってきます。
なにがなんでも授業を受けさせようとする理事長を始めとした学校側のフォローがすごいです。通常であれば、学校無くなるので中退です、で終わると思うのですが、理事長はどうしてここまで対応してくれるのかと考えてしまいました。
永遠のピエタ
小説を書くことが趣味の真美は、徹夜で小説を書き、朝方爆睡し学校をサボることが積み重なり単位取得ができなかった。合宿生活では電子機器の持ち込みが不可のため、学校のパソコンで小説を書いていた。飲食物も最初に持ち込んだもの以外に買うことは理事長の許可が必要。お気に入りのカフェイン入りのドリンクが飲めなくなった真美は…?
カフェイン中毒の話です。単純に身近にある飲み物でも危険なものがあるよということを教えてくれます。
この話でもなんとしてでも卒業させようという理事長の意思を感じます。真美の趣味を否定することなく寄り添う姿はこんな先生に教われる環境、羨ましいなと思わせてくれます。
鏡のジェミニ
誰かに与えられる食事は愛であると育てられ、食べることが好きで太っている千帆。完璧主義者の母を持ち、拒食症で食べることが苦手な茉莉子。正反対なのに似ている2人の物語。
この話でも理事長の策略がすごいです。あくまで小説ですが、この2人を同室にしようという判断はなかなか思い切りが良い判断です。
行き過ぎた体形をしている子どもに、指摘せず食事を食べさせ続けることは果たして愛なのか。考えたこともありませんでしたが、健康のことを考えると愛ではないですよね。
プリマドンナの休日
今の大学で卒業することよりもやりたいことを優先し休学した夏鈴は、まるで委員長のようで完璧な性格の奈々子のことが気になっている。奈々子も休学していたため特別補講に参加したとのことだが、休学の理由は教えてくれない。
…これは怖い話ですかね?この小説のなかで、ある意味一番衝撃的な話でした。読み返してみても「ん?」となるといいますか、やはり怖い話ですよね?と読んだ人に聞いてみたいです。1つ言えることは、考察したくなる話であることは間違いないと思います。
ワンダフル・フラワーズ
生きることに能動的な姿勢を一切見せない玲奈。特別待遇で合宿の間は理事長夫妻と暮らすことに。合宿生活も終盤に近付いてきて―。
ここまで来ると理事長は単に迷惑に思いながら卒業させることを目的に特別補講を行っているわけではないと思えてきます。言葉でははた迷惑ですと言いながら、ここまで生徒に寄り添うことはなかなかできることではないです。「ワンダフル・フラワーズ」では理事長の過去も語られています。
命を守る行動をしてください、と。ここで私があなた方に伝えておきたいのも、そういうことです。
加納朋子『カーテンコール!』株式会社新潮社(2017年12月20日 発行)p267
理事長の過去を通して、逃げてください、助けてと言える人を探してください…と玲奈を始めとした学生たちに伝えています。胸に響きました。
【感想】案内人・理事長
各話あらすじと共に感想を書いてきましたが、理事長について語りたくなってしまいます。各話の主人公は学生たちなのですが、「カーテンコール!」という小説の主人公は理事長だと思いました。
人生の先輩である理事長が、迷っている学生たちに生きていく上での案内をしてくれるような小説でした。通常であればなかった時間を与えられた学生たち。自分にもしそんな時間があったら大切にしなければいけないなと思いました。
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